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熊本地方裁判所 昭和62年(ワ)481号 判決

反訴原告

平田秋義

反訴被告

園田耕一

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、金六五七万三二二四円及びこれに対する昭和五八年八月一八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、反訴原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(請求の趣旨)

一  主文第一項に「金六五七万三二二四円」とあるのを、「金一五二一万〇五七〇円」とするほか、主文第一項と同旨。

二  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

三  仮執行宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  反訴原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二主張

(請求原因)

一  交通事故の発生

1 発生日時 昭和五八年八月一八日午後六時五〇分頃

2 発生場所 熊本市龍田町弓削一三三六番地六塚本ハイツ先市道上

3 当事者(車) 甲―反訴原告(原付二種菊陽町く二八五)乙―反訴被告(普通乗用車 熊五六そ八三五八)

4 態様 前記市道左端を東から西へ進行中の甲に、対向してきた乙が右折すべくセンターラインを越えて衝突した。

5 傷害 反訴原告―頭部外傷(脳しんとう型)、頸筋捻挫、膝打撲症及び擦過傷、右足関節打撲及び擦過傷

6 治療経過 黒原医院

昭和五八年八月一八日、一九日(入院一日)

野上医院

昭和五八年八月一九日より同年一一月八日(入院八二日)

菊陽中央病院

昭和五八年一一月八日より同年一一月二一日(入院一四日)

白男川医院

昭和五八年一一月二一日より同五九年五月三一日まで入院。同年六月一日より八月二二日まで通院(通院実日数八〇日)

桜間脳神経外科病院

昭和五八年一二月二日(検査のため一日通院)

済生会熊本病院

昭和五九年五月九日(検査のため一日通院)

中村外科医院

昭和五九年八月二四日より現在まで通院中(治療実日数五六九日以上)

7 後遺症 頭頸部、腰部打撲等に伴う後遺症として、強度の脊椎側湾、左上肢に知覚異常あり、一四級の認定を受けている。

二  反訴原告の損害

1(一) 治療費 三一一万一五九〇円

(1) 黒原医院分 五万八九四〇円

(2) 野上医院分 一〇六万二八〇〇円

(3) 菊陽中央病院分 三七万二七〇〇円

(4) 白男川医院分 一五二万七三一〇円

(5) 桜間脳神経外科病院分 三万二五四〇円

(6) 済生会熊本病院分 五万七三〇〇円

以上は、反訴被告が支払いずみである。

(二) 外に反訴原告が自己負担しているものとして左のものがある。

(1) 舟尾整骨院 九万二二二〇円

(昭和五九年八月二八日より昭和六〇年一月三一日まで八七日)

(2) 吉田整骨院 五万五〇〇〇円

(3) 丸粧(株)の矯正代 八五〇〇円

(4) 有限会社新生病院 七〇〇〇円

(5) テルミー治療 三〇〇〇円

(6) 白男川医院 二八五〇円

(7) 中村外科医院 四万九九一〇円

(8) 昭和五九年六月一日より昭和六一年七月三一日迄、医療費扶助がなされた額は八二万八一九〇円でこれはいずれ反訴原告が返還しなければならないので請求する。

2 診断書代金

黒原医院分 五〇〇〇円

中村外科医院分 九〇〇〇円

白男川医院 五〇〇〇円

菊陽中央病院 一〇〇〇円

3 入院中の雑費 二八万七〇〇〇円

右は、入院期間二八七日につき、一日当り少なくとも一〇〇〇円の諸雑費の出捐を余儀なくされた。

4(1) 入院中交通費(白男川医院では風呂に入れぬため自宅へ入浴) 二万五九〇〇円

(2) 通院中交通費一回五〇〇円として 二八万一〇〇〇円

5(1) 入・通院慰藉料 三〇〇万円

(2) 後遺症慰藉料 七五万円

6 休業損害(後遺症決裁日まで) 九四五万円

昭和五八年八月一八日より昭和六〇年五月二四日まで

二一カ月

昭和五七年度所得 五四三万四二四三円、一カ月四五万二八五三円

四五万円(端数切捨)の二一カ月分

7 逸失利益 二一五万円(万未満切捨)

原告の後遺症は、一生継続すると思われるが、ここでは、一〇年分のみの請求にとどめる(期間一〇年の新ホフマン係数七・九四四、労働能力喪失率五%)。

五四三万四二四三円×七・九四四×〇・〇五=二一五万八四八一円

8 弁済充当

すでに支払いがなされているのは、医療費金三一一万一五九〇円(これは請求していないので充当ずみである。)のほか、後遺症保険金が七五万円およびその他が二二五万円である。

1(二)ないし7の損害の合計金一七〇一万〇五七〇円より右充当分を控除すると金一四〇一万〇五七〇円となる。

9 弁護士費用 金一二〇万円

以上合計すると金一五二一万〇五七〇円となる。

三 よつて、反訴被告に対し、右損害金及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年八月一八日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する答弁)

一  請求原因第一項について

5の傷害、6の治療経過のうち中村外科医院に関する分及び7の後遺症はいずれも不知。

その余は認める。

二  同第二項について

1の(一)及び8の弁済金額(六一一万一五九〇円)は認める。

その余は不知。

(過失相殺)

本件事故は、反訴原告が見通しの良い直線道路をオートバイで直進中、反訴被告が右折しようとして反訴原告に衝突したもので、反訴原告にも若干の過失があり、損害額算定に斟酌すべきである。

(右主張に対する認否)

争う。

第三証拠

本件記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

1  請求原因第一項は、5の傷害、6の治療経過のうち中村外科医院に関する分及び7の後遺症の点を除き、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二号証によれば、反訴原告は本件事故により、頭部外傷(脳しんとう型)、頸椎捻挫、両膝打撲及び擦過傷、右足関節打撲及び擦過傷の傷害を負つたことが認められる。この認定を覆すに足りる証拠はない。

3  いずれも弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第一号証ないし第四号証、第八号証及び乙第一〇号証を総合すると、反訴原告は前記傷害について治療を受けた結果、白男川医院に入院中の昭和五九年五月当時において、なお、自覚症状として、頭痛、頸項部痛、下肢のしびれ等があつたが、他覚症状及び検査結果としては、両側肩胛部、背部の圧痛があるほか他に異常所見は認められず、右症状に対する治療方法としては、薬物的療法は根本的に効果がなく、本人の積極的意欲を高めるための生活指導(心理的療法)、積極的な運動療法が必要との診断がなされていること、上記反訴原告の症状は、その後白男川医院における通院治療(昭和五九年六月より八月二二日まで)を経て、中村外科医院での長期間の通院治療を行つた後の昭和六〇年三月現在においても、格別の変化は見受けられなかつたこと、以上の事実が認められる。

右によれば、本件事故による反訴原告の傷害は、遅くとも昭和五九年八月二二日には症状固定となり、後遺障害別等級表の第一四級一〇号に該当する後遺障害が存在するに至つたものと認めるのが相当である。前掲甲第八号証中、症状固定日を昭和六〇年三月九日とする点は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上によれば、反訴被告は自賠法三条に基づき、反訴原告に対し本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

二  そこで、以下請求原因第二項(反訴原告の損害)について判断する。

1(一)  治療費 三一一万一五九〇円

これについては、当事者間に争いがない。

(二)  反訴原告の自己負担分として主張するもののうち、(1)ないし(7)については、本件事故による傷害の治療のため必要かつ相当な治療費であることの立証がない。また、(8)の医療費扶助分についても、本件事故との相当因果関係を認めるに足る証拠はない。従つて、いずれも本件事故による損害とは認められない。

2  診断書代金 二万円

弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第一九号証ないし第二七号証によつて認める。

3  入院雑費 二〇万〇九〇〇円

傷害の部位・程度、治療経過、入院期間等に鑑み、一日当たり七〇〇円の二八七日分をもつて相当と認める。

4  交通費 四万一〇〇〇円

(1)の入院中交通費は相当性がなく損害として認められない

(入院雑費でまかなうべきものである)。

(2)の通院中交通費は、前記認定の治療経過に鑑み、一日当たり五〇〇円の八二日分をもつて相当と認める。

5  慰藉料 二二五万円

傷害の部位・程度、入通院期間及び後遺障害の内容に鑑み、右金額をもつて相当と認める。

6  休業損害 五四三万四二四三円

弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二九号証(但し三枚目については成立に争いがない)ないし第三二号証及び反訴原告本人の供述に、前記認定の治療経過等の事情を綜合すれば、反訴原告は昭和四三年頃から塗装業を営なむものであり、事故の前年の昭和五七年度の所得は五四三万四二四三円であつたところ、事故後の昭和五八年八月一八日より昭和五九年八月までの一二カ月間は入通院治療等のため休業を余儀なくされたことが認められる。反訴原告本人の供述中右認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、休業損害はつぎのとおりである。

五四三万四二四三円÷一二×一二=五四三万四二四三円

7  逸失利益 九二万七〇八一円

前記後遺障害の内容並びに反訴原告本人の供述及び弁論の全趣旨に徴すれば、反訴原告の後遺障害の存在による得べかりし利益の喪失は、事故後一年を経過した昭和五九年九月から同六三年八月までの四年間につき、五パーセントの割合とするのが相当である。反訴原告本人の供述中右認定に反する部分は採用できない。従つて、その間の逸失利益はつぎのとおりである(期間五年のホフマン係数―期間一年のホフマン係数=三・四一二)

五四三万四二四三円×〇・〇五×三・四一二=九二万七〇八一円

以上合計一一九八万四八一四円

8  弁済充当

反訴原告が本件事故による損害に対し、既に治療費を含め六一一万一五九〇円の支払いを受けていることは当事者間に争いがなく、これを控除すると残損害額は五八七万三二二四円となる。

9  弁護士費用 七〇万円

本件訴訟の経過、損害認容額等に照らし、右金額をもつて相当と認める。

以上損害合計は、六五七万三二二四円となる。

10  過失相殺

本件事故発生について、反訴原告に損害額算定につき斟酌すべき過失があつたことは、本件証拠上認められない。反訴被告の主張は採用できない。

三  以上の次第で、反訴原告の本件請求は、金六五七万三二二四円及びこれに対する不法行為の日である昭和五八年八月一八日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるからこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋重雄)

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